第七章 芸術論 : 一 芸術論の原理的根拠 :

 新しい芸術論は、もちろん統一原理を根拠としています。その原理的根拠の中でも最も重要なのは、神様の創造目的と創造性、喜びと相似の創造、授受作用などに関する理論です。
 まず神様の創造目的と創造性について説明されています。神様の宇宙創造の目的は、愛を通じて喜びを実現することでした。そのために神様は、喜びの対象として宇宙を造られたのです。神様が宇宙を創造されたということは、神様が偉大な芸術家であって、宇宙は神様の作品であるということを意味します。さらに具体的に表現すれば、神様が喜びを得るために宇宙を造られたということは、直接的には人間を喜びの対象として造られたのであり、人間を喜ばせるために人間の喜びの対象として万物を造られたということを意味します。
 人間に対する神様の創造目的を人間を中心として見るときには、造られた目的すなわち被造目的となりますが、それが全体目的と個体目的です。全体目的は神様または全体(民族、国家、人類など個人に対する全体)に喜びを与えるということであり、個体目的は他人や全体から自分の喜びを得ることです。神様は、人間がそのような被造目的を達成するように、人間に欲望を与えたのです。したがって人間は、神様または全体を喜ばせながら自身も喜ぼうとする衝動(欲望)を常にもっているのです。人間の芸術活動は神様の宇宙創造に由来していますが、創作活動は全体目的すなわち他者を喜ばせようとする欲望から出発し、鑑賞活動は個体目的すなわち自身の喜びを得ようとする欲望から出発しているのです。
 神様の創造目的は原相における内的発展的四位基台と外的発展的四位基台の形成能力すなわち創造の二段階の形成能力なのです。内的発展的四位基台の形成とは、ロゴス(構想)を形成することであり、外的発展的四位基台の形成とは、ロゴスに基づいて形状である質料を用いて万物を造るということです。神様のそのような創造過程がそのまま人間の芸術活動における創作の二段構造の形成として現れます。すなわち、まず構想を立てて、次に材料を用いて構想を実体化して作品をつくるのです。

 次は喜びと相似の創造について説明されています。これまでに述べられているように、神様は喜びの対象として人間と万物を造られました。主体の喜びは自己の性相と形状に似た対象からくる刺激によって得られます。したがって神様は、神様の二性性相に似るように形象的実体対象として人間を造られ、また象徴的実体対象として万物を造られたのです。これを芸術論に適用すれば、芸術家は喜びを得るために、自己の性相と形状に似せて作品を作るのであり、鑑賞者は作品を通じて自己の性相と形状を相対的に感知して喜ぶという論理になります。
 最後に授受作用について説明されています。神様において性相と形状は、主体と対象の相対的関係のもとで授受作用を行って合性体または繁殖体を成しています。繁殖体を成すとは、万物を創造するということです。神様の原相内のこのような授受作用を芸術論に適用すれば、創作は主体(芸術家)と対象(素材)の授受作用によって行われ、鑑賞も主体(鑑賞者)と対象(作品)の授受作用によって行われるということになります。したがって創作においても鑑賞においても、主体のもつべき条件と対象のもつべき条件が必要となるのです。価値論において述べられているように、価値(真美善)は主体的条件と対象的条件の相対関係によって決定されるからです。