第四章 価値論 : 二 価値論の原理的根拠 :

 統一原理によれば、人間は性相と形状の統一体であって、目的と欲望をもっています。欲望はもちろん神様から賦与された創造本性(『原理講論』P118)です。そして目的も欲望もそれぞれ、二重性を帯びています。こうした事実を根拠として統一価値論が成立するのです。

 性相・形状と二性目的
 創造された人間には一定の被造目的(神様の創造目的)が与えられています。こうした被造目的をもつ人間は二性性相の統一体です(すなわち霊人体と肉身の二重体であり、生心と肉心の二重心的存在です)。人間に被造目的が与えられているということは、人間の性相にも目的が与えられており、形状にも目的が与えられていることを意味します。前者を性相的目的といい、後者を形状的目的といいます。この両者を合わせて「二性目的」とも呼びます。二性性相に対応する目的という意味です。
 性相は生心を意味し形状は肉心を意味するために、性相的目的とは生心がもっている目的であり、形状的目的とは肉心がもっている目的です。したがって性相的目的とは、生心の目的である真美善愛の生活を営むことを意味し、形状的目的とは肉心の目的である衣食住性の生活を営むことを意味するのです。

 性相・形状と二性欲望
 人間は性相と形状の統一体であり、生心と肉心の二重心的存在であるために、目的と同様に、欲望にも性相的欲望と形状的欲望があります。これを「二性欲望」と呼ぶことにします。「二性目的」と同様に、二性性相に対応する欲望という意味です。性相的欲望とは、生心の欲望としての真美善愛の生活に関する欲望であり、形状的欲望は、肉心の欲望としての衣食住性の生活に関する欲望です。

 二重目的と二重欲望
 統一原理によれば、人間はまた全体目的と個体目的という二重目的をもつ連体です(『原理講論』P65)。これは性相(生心)も全体目的と個体目的をもっており、形状(肉心)も全体目的と個体目的をもっていることを意味します。すなわち性相的目的にも全体目的と個体目的があり、形状的目的にも全体目的と個体目的があることを意味します。
 ところで欲望とは、与えられた目的を達成しようとする心の衝動です。したがって欲望には、全体目的を達成しようとする欲望と個体目的を達成しようとする欲望があります。前者を価値実現欲といい、後者を価値追求欲といいます。この両者を合わせて「二重価値欲」と呼びます。これは性相的欲望と形状的欲望が、それぞれ二重目的を実現するための二重欲望、すなわち価値実現欲と価値追求欲をもっていることを意味します。それゆえ性相的欲望にも価値実現欲と価値追求欲があり、形状的欲望にも価値実現欲と価値追求欲があるのです。
 ここで、二重目的および二重欲望と関連して、二重価値について説明されています。目的に二重目的があり、欲望の二重欲望があるように、価値にも二重価値があります。それが実現価値と追求価値です。価値実現欲によって実現しようとする価値、または実現された価値が「実現価値」であり、価値追求欲によって追求しようとする価値、または追求された価値が「追求価値」です。このような二重目的と二重欲望と二重価値は、互いに対応関係にあるのです。

 欲望の由来と創造目的
 ところで、人間の欲望は何のためにあるのでしょうか。それはすでに述べてあるように、創造目的を実現するためなのです。神様の創造目的とは、神様においては、対象(人間と万物)から喜びを得るということです。しかし被造物の立場から見れば、その創造目的は被造目的のことになります。特に人間は、神様に美をお返しし、神様を喜ばせるということにその目的があるので、人間の創造された目的すなわち人間の被造目的は、人間が、生育し、繁殖し、万物を主管するという三大祝福を成就することによって達成されるのです。したがって人間の創造目的(被造目的)とは、とりもなおさず三大祝福を完成するということを意味するのです。
 神様が人間を創造されたとき、人間に目的だけを与えて欲望を与えなければ、人間は、せいぜい、ただ「創造目的がある」、「三大祝福がある」ということが分かるだけで、実践の当為性を感じることはできなかったはずなのです。ですので神様は、人間にその目的を実現していくための衝動的な意欲−やってみたい、得てみたいという心の衝動性−を与えなければならなかったのです。その衝動性が欲望なのです。したがって人間は、生まれながらに創造目的(被造目的)、すなわち三大祝福を達成しようとする内的な衝動を感じながら、成長してゆくのです。そしてこのような欲望の基盤になっているのが心情なのです。
 人間は、全体目的と個体目的の二重目的をもつ連体です。したがって創造目的の実現は、全体目的と個体目的を実現することになります。人間の全体目的とは、真の愛を実現すること、すなわち、家庭、社会、民族、国家、世界、そして究極的には人類の父母である神様に奉仕することであり、人類と神様を喜ばせようとすることです。そして個体目的とは、個体が自己の成長のために生き、自己の喜びを求めようとすることです。人間のみならず、万物もすべて、全体のための目的と個体のための目的という二重目的をもっています。それが創造目的の二重性、すなわち被造目的の二重性なのです。
 万物と人間では創造目的の達成の仕方が異なっています。無機物は法則に従って、植物は自律性(生命)に従って、動物は本能に従って、それぞれの創造目的を達成しています。しかし人間の場合は、神様から与えられた欲望に従って、自由意志意をもって自らの責任で創造目的を達成するのです。すでに述べられているように、欲望とは与えられた目的を達成しようとする心の衝動のことです。
 目的に全体目的と個体目的の二重目的があるように、それに対応して欲望にも価値実現欲と価値追求欲の二重欲望があります。そしてこの二重目的と二重欲望に対応する価値が実現価値と追求価値の二重価値です。